加藤 一:編/鬼怪談 現代実話異録

 「鬼」がテーマ。
 そのため、怪談の内容も大分一定の傾向に偏ってしまっている。
 ほとんど、何らかの鬼的なものが出て来ないと成立しないからだ。
 故に、一番好みである不条理ネタ、家や土地に纏わる噺などは登場機会が著しく制限されてしまった。
 現れる代物もどうしても似通ってしまうので、同じような印象を受ける話が多かった。
 しかもあまり面白くない。
 印象的な話はごく僅かに留まった。

 「有能な鬼面」着けることで意識を失ったまま遠くまで移動させてしまう面。語り手は歩いたという発言をしているけれど、そういう距離でもなさそう。どうやって移動したのか。そして、何故移動してしまうのか。それ以外には何かしていなかったのか。
 最後の疑問は、語り手がこの面を使って「何か」を行ったらしいことから生まれている。 何を実行したのか。人間の方が怖い、というオチ的な話ながら、気になって仕方ない。

 「夜の県道」入り組んだ話になっているけれど、根本が不条理で興味深い。
 車に呼びかける人間なのか霊なのか、といった存在。語り手が呼び込まれるように夢の中でその存在となってしまっていたが、それは他の人間にも見えていたようで、夢とも言い難い。
 ただ、何故そんなことになるのか、この連鎖がどこを目指しているのかさっぱり判らない。
 鬼を鬼ごっこの「鬼」、と捉えたためにこうした異色ネタも入ってこられた。

 「かくれんぼ」空想の記憶ものかと思いきや、子供の頃林間学校で行方不明となった事件があり、その時のことでは、という怖ろしい事実が判明する。
 しかし、語り手はそのことを全く覚えていないし、記憶では着物を着ていたり、と現実とは合わない部分もありそうだ。
 果たして信実はどこにあるのか。そしてこれから何か起こってしまうのだろうか。
 続報が気になる作品の一つ。

 「条件の家」大作。
 しかし、この怪異が何なのかはほとんど判らない。実際にはそれ程何か起きているわけでも無い。
 それでも、滞在していた別宅の怪しさ、そして神社から完全に遠ざけられてしまう謎、相当に不気味ではある。この家には一体どんな秘密が隠されているのだろうか。

 「鬼の子」鬼に喰われてしまって上半身だけになった存在、というのが怖ろしいし物悲しい。
 鬼はやはり人ではなく、猛獣と同じようなものなのだろうか。

 このシリーズ、基本的に毎回面白い作品が少ない。
 やはり怪談というのは、何か枠を嵌めてしまうと良くないのかもしれない。

鬼怪談 現代実話異録posted with ヨメレバ加藤 一/久田樹生 竹書房 2021年03月29日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る